音韻

音声をききとったり発音する能力は、生後、その母語に適するようにかたちを 変えます。この能力は言語によって異なるため、外国語をきいたり発音する場合 に問題が起きる場合があります。日本人が英語の/r/と/l/や母音が苦手なのは、 この典型的な例です。

日本人が区別できない/r//l/についての素朴な疑問と,研究結果をみてみましょう。



■/r/と/l/のちがい

下の図は/r/と/l/を発音した際の舌の位置と、その声紋分析の結果です。周波数のエネルギーの高いところをF1、F2、F3としています。F3に着目すれば、2音をきき分けることができます。


舌の位置図 声紋分析結果

1)なぜ、区別できないの?

●頭の引き出しが問題!

耳から入った音声信号は、まず聴覚器官を通り、脳の聴覚野に伝わります。この過程でさまざまな分析が行われ、何という音であったか認知されます。この段階で音韻(母音や子音)は、その言語で意味のあるカテゴリーに分類されます。この音韻カテゴリーは、引き出しに例えるとわかりやすいかもしれません。

●引き出しの境界があいまい

アメリカ人の場合、/r/と/l/の引出しの境界が明瞭で、入れ間違えることはありません。ところが、日本人の場合、境界がはっきりしていません.
以下の実験は、/r/から/l/に段階的に変化していく17個の音を合成し、アメリカ人と日本人で聞きとりの実験をしたものです。アメリカ人では境界が明瞭なのに比べ、日本人では反応が徐々に変化します。

聞き取りグラフ

●引き出しがゆがんでいる

/r/や/l/の合成音を、アメリカ人と日本人で聞きとりの仕方を比較したところ、 アメリカ人では、/r/と/l/の音響的な違いであるF3できき分けているのと対照的に、日本人では、むしろF2に着目してきき分けていることが明らかになりま した。
つまり、引出しが歪んでいるといえます。

聞き取りグラフ2

2)練習すれば聞き取れるようになるの? 発音できるようになるの?

●聞き取れるようになります。

/r/と/l/の聞き取り訓練を行ったところ、訓練効果があることがわかりました。
下の図は、そのひとつの結果ですが、約20時間の訓練で、正答率が20%アップし、その訓練効果は6ヶ月後にも持続されていました。
また、聞き取り訓練で発音能力がアップし、逆に発音を訓練すると、聞き取り能力も向上することがわかりました。

訓練結果グラフ